本音トーク 杉本眞人 x 鈴木淳

杉本眞人 すぎもとまさと

作曲家・シンガーソングライター。

東京都新宿出身。

1972年 作詞・作曲集団「フォーメン」を結成。

1975年「フォーメン」解散後、キングレコードより、デビューLP「あすふぁると」発表。

以降シンガーソングライターとして活躍。

【代表曲】

お久しぶりね/今さらジロー(小柳ルミ子)、 ベサメムーチョ(ケイ・ウンスク)/トーキョー・トワイライト(チェウニ)、吾亦紅


本音トーク

杉本 淳さんとはずいぶん長いお付き合いだよね。もともと親戚が知っていたりして。

鈴木 お宅に僕のサインがあるとか(笑)

杉本 そうなんですよ。

鈴木 そういう古い友達だから、今日は対談といっても、楽しくお話出来ればいいと思ってるよ。早速だけど「吾亦紅」いいね。すごい評判にもなってるし。

杉本 ありがとうございます。淳さんにそう言ってもらえるのはすごく嬉しいなあ。

鈴木 なんでいい曲なのかって考えると、それは一本線が通ってるからなんだよね。最近、聴いたことのあるようなメロディをつなぎ合わせたような曲が多いじゃない?

杉本 作り手がカラオケを意識しすぎているところもあるよね。もちろんカラオケの良いところもあるけど、それにとらわれすぎる作曲家も良くない。自分の中の蓄積みたいなものもあるから、どうしてもメロディが似てくることもあるんだけど、それでも「これは俺にしか書けないだろう!」というものを見つけ出すことが大切だよね。

● リスクを負ってもオリジナリティに賭ける

鈴木 最近はアレンジでも似たフレーズが多くて、そういうものはある程度は売れるけど、そればっかり追っていると後に残っていかないよね。

杉本 例えば、「これに似た曲を書けば100万枚売れるな。」というのがあったとしても、「20万枚しか売れないかも知れないオリジナル」があったら、リスクがあっても僕は20万枚に賭けるね。カラオケのファンに合わせるんじゃなくて、その人達がついてくるようなものを作らないと。

鈴木 今、カラオケで歌うためにCDを買っている人が多くて、そういう人達はB面(カップリング)をほとんど聴いていなかったりする。だから、覚え易い作品が多くなっている。そういう同じ様な曲が溢れる中に、突然オリジナリティのある詞、心打つ歌が出てくるとハンパじゃない。 「吾亦紅」や、「千の風になって」は売れるべくして売れているんだよね。みんな心打つ歌に飢えている。でも、そういう歌は人の耳に達するまでが大変で、なかなか売れないんだけど。それでも僕はB面には必ず「これが俺だ!」というものを入れるようにしてる。

杉本 「吾亦紅」はオフクロのための歌で、本来カラオケで歌う様な曲ではないんだけど、最近、沢山の人が歌っていると知って、音楽シーンも捨てたもんじゃないなと。

● 母への想い

鈴木 ところで、あの曲はお母さんが亡くなってから作ったの?

杉本 そうです。もともと父の具合が悪かったんですが、ある日突然母が看病疲れで・・。あんなにお世話になったのにって、自分が許せなくて。哀しんでいる時に、母と親交のあった、ちあき哲也さんが「お母さんに詩を書いたんだけど、メロディをつけてみない?きっとお母さん喜ぶよ。」と言ってくれて、それでつけたのがあの曲なんです。

鈴木 それは感動が入ってる訳だよね。詩が切実で、まるで自分で詩をつけたみたいだよね。多少詞を直したりはしたの?

杉本 ないです。

鈴木 へえ! あのままなの?。それはすごい。もう完璧にできてるもんね。

杉本 ちあき哲也さんの詩がすごいと思ったのは、普通、母親がテーマの曲だと「お母さん」というフレーズが出てくるんだけど、「あなた」にしてるところ。だからあの歌の中の「あなた」はお母さんでもあり、お父さんでもあるんです。だから多くの人に響いたんだと思うんです。

鈴木 そうだね。「あなた」なら、聞いている人がそれぞれに当てはめられる。ちあき哲也さんの心の中に、何か想いがあるんだろう、というのが聴いている人にもわかる。あと、音が薄い点も、とてもいいね。

杉本 あのアレンジはほとんど自分でやってます。聴いてもらえると分かるんだけど、詩も曲も何の仕掛けもなくて、奇もてらってない。そこが大事だな、と。僕たちはふだん、計算しすぎなのかも知れない。

● 世代を超えた反響にびっくり

鈴木 ああいう曲は接する機会があまりないと思うんだけど、聴けば絶対に若い人達も感動する。きっと色んな世代の人が買ってくれたんだろうね。

杉本 今回ビックリした事があって。この前NHKの歌謡コンサートに出て、翌日一番反響があったのが、なんと「着メロ」だったんです。

鈴木 え?着メロ!?

杉本 そう。ダウンロードの数字がグーっと伸びたんだけど、着メロってお年寄りはやらないでしょ。それで若い人も感動してくれたんだな、と感じました。あの曲ってどのジャンルにも入らない、俺だけの歌。お母さんを思う、極端に言えば童謡かも知れない。この曲は天国のおふくろからの贈り物だと思っていて、だから歌うのは今年いっぱいでいいと思ってる。

鈴木 いや、多分やめないだろうな(笑)。

● ジャンルの壁

杉本 ジャンルの話でいえば、例えば僕がポップス系の歌手に曲を書きたい、と言っても、「演歌の作曲家なんでしょ。」ってひとまとめにされちゃうとやる気が失せちゃうよね。

鈴木 ほんとはそうやってジャンルに分けるのっておかしいんだよね。でもまあ便宜上、仕方ないんだけど。ポップス系の人が演歌書くっていうと「じゃあ書いて下さい!」ってなるんだけどね。

杉本 演歌とかポップスだとかジャンルは関係なくて、心に刺さる歌がいいものだと思う。ディレクターとケンカしてでもね。

鈴木 杉本君の曲聴いているとそれが分る。両方(作曲家もディレクターも)頑固なんだなあって。言い方は良くないけど、作曲家と作詞家やディレクターがもっと戦をして、ぶつかりあって出来上がるものがいいんだろうね。僕はよく言うんだけど、最近の歌は停電の時には唄えない。そういう時にみんなで口ずさめる曲を作りたいよね。

杉本 そうやってまっすぐ進む中で失敗するかも知れないけど、オリジナリティを追求するためには頑張らないと。

●編集部「ところで杉本先生はどの位の時間をかけて曲を作られますか?」

杉本 出来るときは十五分くらい。この曲もそう。とにかく「ライブでは絶対にオフクロの事を想いながら唄おうって。僕はここで頑張ってるからね」という気持を込めて一気に書いたんです。ライブでこの曲を唄うと必ずオフクロが来てくれるんです。淳さんはどの位?

鈴木 ものすごくかかる時と、あっという間の時がある。時間がかかるということは計算をしている訳だから早く出来た曲の方がやっぱりいい。仕掛けを作ったりして出てこない時はものすごいかかるけど、それは助走の時間であって、いざ走り出すとバァーッと出来る。

杉本 この感覚は作曲家にしか分らないだろうけど、集中した時は1日がものすごく短くて、「もうこんな時間!」となる。   

鈴木 八代亜紀の「あなたに乾盃」なんかは、妻(悠木圭子)がワンコーラスだけ書いたメモを、キッチンに置いたまま買い物に行っている間に出来ちゃったんだよ。三十分くらいかなあ。

● 偉大な作家との思い出

杉本 淳さんの曲は演歌!って感じじゃないよね。僕も、いかにも演歌っぽいものは書けなくて、以前、市川昭介先生に「演歌教えて下さいよ!」て言ったことがあるんだけど、「そんな事したら仕事がなくなるからお前はこっちに来るな」って(笑)。まあそれは冗談ではあったんだけど。

鈴木 あの人らしい話だね。あの人はいつもニコニコしていたな。亡くなる直前に、家の者が市川先生からの電話を受けて「淳さんとはずうっと友達ですからね。」って言われたらしいんだけど、その後すぐに亡くなって・・・。電話に出られていたら、と悔やまれたけど、すごいメッセージを頂いた。

杉本 先日亡くなった阿久悠さんもヒット曲の宝庫だよね。実は晩年はずっと一緒に仕事していたんですよ。あさみちゆきの曲は、全部阿久さんの詞で。阿久さんは石川さゆりの仕事の時に、最初「杉本君とはあまり相性がよくない。」って言ってたんだけど、「これを杉本に」 って渡されたのが「人間模様」や「転がる石」。その頃から阿久さんは自分のことを書いていて、あさみちゆきの新曲「聖橋で」も舞台は阿久さんの母校明治大の近くでね。詞の内容は小説家を目指した女の子との同棲生活を書いている。

鈴木 へえー。

杉本 「阿久さん、また一緒に仕事しましょうね。」ってこの前言ったのが最後。

鈴木 本当にすごいよねー。あの人は。吉田正先生も気骨のある作家だった。

杉本 カッコよくってねー。

鈴木 それでいて、ものすごく優しい。そういう気骨のある最後の作家かも知れない。

● 矢沢永吉に触発されて

杉本 なんでこのアルバム([Bar Starlight])を作ったかというと、若い人達の曲はワーワーやってるのに、僕らの世代はあまりやってない。でも同世代の矢沢永吉がやっているのを見て、まだまだ出来る!と思ったから。「吾亦紅」についても、個人的な曲だから発売しないつもりだったんだけど、一旦やるとなったら「キャンペーンでも何でもやってやる。」と思った。

この歌は邪心がないから、この歌を広めるためにどこでも行くよって。でもそう思ってやっている歌い手ってどのくらいいるのかなあ。さっき話した「歌謡コンサート」の時、3000人の前で歌ったんだけど、あんな気持ちのいいことってない(笑)。

隣にいた坂本冬美は、その事の凄さを分ってるから、汗ビッショリだったけどね。そう思って力入れて歌ってる人と、すぐに売れちゃって何となく歌ってるヤツは違うよね。「今に落ちるぞ」って(笑)

鈴木 いい話だね~。

杉本 俺たちは音楽バカだから、音楽を取られたら何もない。男社会ってヤキモチ妬くけど、自分達はどこで妬くかって言ったら楽曲だよね。「これは他のヤツには書けないだろう」っという、ヤキモチを妬かれるようなものを作らないと。

● 僕のことを分ってくれる人はみんな偏屈(笑)

鈴木 君もプロだから、時には計算してるかなというのもなくはないけど(笑)でも人と違う、いいものを沢山残している。僕なんかは八代亜紀に出会ってから演歌をやるようになったけど、今でも錆びないでいられるのはやっぱり演歌を書き続けて来たから。だから今でもメロディが出てくるんだよね。

杉本 ある程度の年齢までいったら、もう走り続けないとね。それと淳さんがすごいところは、歌い手を育ててるところ。最近、特色のある歌い手が少ないと思うから、今後も魅力ある、特色ある歌手を育ててもらいたい。

鈴木 いま、かなり必死になってやってるよ。そのためにプロデューサーもやってね。僕は生き方が下手で、人が育てた歌手とはほとんど仕事してないんだよ。

自分が手がけた歌手が育った頃に、他の作家が書くことになったりして、もちろん悔しいんだけど、それをエネルギーにしてね。歌手を育てることは僕の定めだと思って今でもやっているけど。

杉本 生き方が下手なのは、淳さんも僕も一緒でね。僕のところにも「弟子にして下さい。」って来るけど、人に教えるの大ッキライだから(一同笑)。悪いなぁ、とは思うんだけど僕には出来ない。だからこそ淳さんはスゴイと思う。

鈴木 僕は人付き合いが下手で、レコード会社ともケンカしちゃうんだ(笑)。僕の事を分ってくれる人はみんな偏屈なんだよ。君みたいに(笑)。僕もそういう人が好きだし・・・。

杉本 作曲家であるかぎり、ヒット曲作ってれば、人間としてダメだろうがダサかろうがいいかな、とも思うけど、人間欲張りだから、「生き方も素敵だし、ヒット曲も沢山ある」というようにしたいよね。

鈴木 それが一番いいよね(笑)これからもお互いヤキモチを妬く位、良い作品を作っていこうね。